Columnマンション経営コラム

原状回復ガイドラインとは?概要、入退去時のチェックポイントなど解説

2021.09.27

原状回復ガイドラインとは?概要、入退去時のチェックポイントなど解説

「賃貸物件の『原状回復ガイドライン』というのがあるようだけれど、どんな内容?」
「原状回復ガイドラインでは、退去時の修繕費用はどこまでが大家さん持ちでどこからが借り主持ちになるの?」

賃貸物件に住んでいる人やその大家さんの中には、こんな疑問を持っている人も多いことでしょう。

「原状回復ガイドライン」とは、賃貸住宅の退去時に起きがちな「原状回復」にかんするトラブルを未然に防ぐために、国土交通省が作成したものです。

「原状回復」とはどんな状態を指すのか、その定義
原状回復の費用負担は、大家・賃借人のどちらがもつかの線引き

などについて、一定の基準が示されています。

法律のような強制力はありませんが、これをもとに賃貸契約を結んだり、退去時の原状回復について話し合えば、トラブルを防ぐことができるはずです。

そこでこの記事では、原状回復ガイドラインについて、大家さん・住民の両方が知っておくべきポイントをわかりやすく解説していきます。

まず、
「原状回復ガイドライン」とは何か
「原状回復」の定義と「原状回復義務」について
「原状回復ガイドライン」の概要

について説明します。
その上で、

原状回復費用を大家さん・住人どちらが負担するかの具体例
費用負担に納得いかない場合の対処法
原状回復ガイドラインを踏まえて大家さんがすべきこと
原状回復に関するトラブルを未然に防ぐ方法

といった実践的なことをお知らせしていきます。

最後まで読めば、原状回復ガイドラインの内容と、トラブル回避の方法がよくわかるはずです。
この記事を読んだ大家さん、住人の方どちらもが、納得いく原状回復ができるよう願っています!

1.「原状回復ガイドライン」とは

そもそも「原状回復ガイドライン」とは何でしょうか?
まずはその意味について、わかりやすく説明しましょう。

1-1.「原状回復ガイドライン」とは

「原状回復ガイドライン」は、正式名称を「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」といいます。
賃貸住宅の退去時に起きがちな「原状回復」にかんするトラブルを未然に防ぐために、国土交通省が作成したガイドラインで、

「原状回復」の定義
原状回復の費用負担は、大家・賃借人のどちらがもつか

などについて、一般的な基準を示したものです。

というのも、賃貸住宅の退去時には、部屋を借りていた人が物件をもとの状態に戻す=原状回復の義務があるとされていますが、これに関してトラブルがひんぱんに発生します。

具体的な例を挙げると、部屋を借りている側からは、

・自然な経年劣化だけで目立った汚れがないのに、壁紙を全面張替えると言われて敷金が戻らなかった
・入居時にすでに床や壁に傷がついていたのを、自分がつけたとして修繕費を請求された

などの事例が、逆に大家さん側からは、

・ペット飼育不可の物件なのに、内緒で飼われていて室内の汚れやにおいがひどかった
・敷金から原状回復に必要な修繕費を引いて返金したら、全額返金しろと激怒された

といったケースがあるようです。

そこで、これらのトラブルを未然に防ぐためにもうけられたのが、「原状回復ガイドライン」なのです。

といっても、あくまで「ガイドライン」であって法律ではないので、絶対に守らなければならないものではありません。
賃貸契約は、あくまで賃貸契約書での取り決めに従うのが原則です。

ですから、まずは賃貸契約を結ぶときに、このガイドラインを参考にして、「原状回復」についても双方が納得できる契約内容を作成しておきましょう

また、すでに契約済みの物件であっても、退去時に契約書に記載がないトラブルが起こったり、記載内容があいまいで判断しづらい問題が生じることもあり得ます。
そんなときも、このガイドラインを基準に話し合いを進めるといいでしょう

ガイドラインの全文は、以下からダウンロードすることができますので、ぜひ目を通してください。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

1-2.「原状回復」の意味・定義

「原状回復ガイドライン」では、まず「原状回復」という言葉の意味を定義しています。

というのも、退去時のトラブルの原因のひとつに、「原状回復とは、どこまで元の状態に戻すことか」の認識の違いがあるからです。
「すべてまっさらな新築同様の状態に戻す」のか、「入居時の状態に戻す」のか、「5年住んだら5年分自然に劣化した状態のままでいい」のか、それによって修繕費は大きく変わりますよね。

結論をいえば、「原状回復ガイドライン」が定義する「原状回復」とは以下の通りです。

賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること

言い換えると

【原状回復に含まれるもの=賃借人が退去時に元にもとさなければいけないもの】
・賃借人がわざとつけたキズやいたみ、故障など
・賃借人のミスでついたキズやいたみ、故障など
・賃借人が常識的ではない使い方をしたせいでついたキズやいたみ、故障など

【原状回復に含まれないもの=賃借人には修繕する義務がないもの】
・自然に使用していて生じた劣化(=経年劣化
・常識的な使い方をしていてついかキズやいたみ、故障など(=通常損耗

となります。

つまり、「原状回復」とは、
✖新築同様の状態に戻すこと
✖入居当時の状態に戻すこと
ではなく、「経年劣化」や「通常損耗」は回復しなくてもよい、というわけなのです。

1-3.「原状回復義務」とは

「原状回復」の定義はわかりましたよね。
では次に、「原状回復義務」について説明します。

民法第621条によると、何らかの物を賃貸で借りた人=賃借人には、賃貸が終了したときにその物を原状に回復する義務があると定められています。
これを「原状回復義務」と呼んでいます。
実際の条文は以下の通りです。

【民法】

第六百二十一条(賃借人の原状回復義務)

 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

この法律は賃貸物件にも適用されるため、物件を借りた人は、退去時に原状回復しなければならないわけです。

ただ、上記の条文には、「ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」と書かれています。
簡単に言えば、「賃借人のせいではないキズやいたみ、破損は回復しなくてもよい」ということです。

これにあたるのが、「1-2.「原状回復」の意味・定義」で説明した「経年劣化」「通常損耗」です。

ちなみに「原状回復ガイドライン」では、「経年劣化」「通常損耗」の判断基準として、以下のグラフを提示しています。

A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの
B:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの)
A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの
A(+G):基本的にはAであるが、建物価値を増大させる要素が含まれているもの

出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」

「原状回復ガイドライン」では、このグラフのうち「B」と「A(+)B」にあたる劣化や損傷については賃借人が原状回復しなければなりませんが、それ以外は原状回復しなくてよいものとされています。

1-4.原状回復ガイドラインと契約書はどちらが優先されるか

「1-1.「原状回復ガイドライン」とは」 でも触れましたが、原状回復ガイドラインはあくまで「ガイドライン」であって強制力はありません。
正式に結ばれた賃貸契約のほうが優先されます。

もし、原状回復ガイドラインには「賃借人には回復義務がない」となっている項目が、賃貸契約書の中では「賃借人に回復義務があるものとする」とされていた場合は、契約書のほうに従わなければならない可能性が高いでしょう。

ただ、契約の内容自体が法律に抵触している場合は、その契約条項に関しては無効を申し立てることができます
その場合は、契約書ではなくガイドラインを基準にして話し合えばいいでしょう。

1-5.契約書の「特約」に要注意

契約書には、「特約」がついていることがあります。
これは、契約に追加で加えるオプションのようなものです。

賃貸物件の契約の場合、すべての物件に同じ契約書を適用すると、不足する部分や当てはまらない部分が出てきます。
というのも、物件の状況や価値、条件などは1戸1戸で異なるからです。

そのため、基本的な契約書に個別の「特約」をつけて、その物件用にカスタマイズするのです。

この特約は、契約時に賃借人がその内容を理解していれば有効になりますので、賃貸物件を借りようとする人はかならず確認してください。

たとえば、「退去時には、クリーニング業者による室内全体の清掃代を負担する」といった、いわゆるクリーニング特約がついていたとします。
契約時に賃借人がそれを知っていて契約したのであれば、もし退去時に「そんなに汚れていないから、一部だけの清掃でいいのでは」と言っても、全体清掃分の費用を支払わなければならない可能性もあるのです。

賃借人も大家さんも、事前に特約の内容をお互いによく理解・納得した上で契約を結ぶ必要があるでしょう。

2.「原状回復ガイドライン」の概要

では、実際の原状回復ガイドラインとはどんな内容なのでしょうか。
書かれている内容をざっくりまとめると、以下の通りです。

◎原状回復に関するトラブルを未然に防止する方法
 ・物件の状況を入退去時に確認しておく
  →「6-2.「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」を活用する」 でくわしく説明します
 ・賃借人が原状回復しなければならない部分を費用などをあらかじめ書面で伝えておく
◎「原状回復義務」に関する考え方
 →「1.「原状回復ガイドライン」とは」 でわかりやすく解説しています

◎原状回復に関して実際に賃借人が何をどう負担するのか
 →「3.原状回復費用を貸主・借主どちらが負担するかの具体例」 「4.経過年数によって負担割合は変化する」 で図表とともに説明しています

◎トラブルを解決するための制度
 →「5.費用負担に納得いかない場合の対処法」 で説明しています

◎Q&A

原状回復に関する裁判の判例

内容のうち重要なものは、この記事の中でおおむね解説しています。
「この項目だけ今すぐ知りたい」というものがあれば、上記のリンク先に飛んでください。

3.原状回復費用を貸主・借主どちらが負担するかの具体例

ここまで、原状回復ガイドラインの内容について、知っておくべき基礎知識をわかりやすく説明しました。

が、
「実際に、どの部分をどの程度汚してしまったら、修繕費を負担しなければいけないの?」
「大家さんが負担する部分と借り主が負担する部分の線引きを、もっと具体的に知りたい」
という疑問が生まれますよね?

賃貸人(=大家さん)と賃借人(借り主さん)がどこのどんな修繕を負担するか、という具体例は、以下の表を見てください。
退去時にはこの表をもとに、大家さん・借り主さんで話し合いをするといいでしょう。

【賃貸人・賃借人の修繕分担表】

部位 賃貸人(大家さん)
負担のもの
賃借人(借り主さん)
負担のもの
賃借人(借り主さん)の負担単位
床(畳、フローリング、カーペットなど) ◎畳の裏返し、表替え(特に破損等していないが、次の入居者確保のために行うもの)
◎フローリングワックスがけ
◎家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
◎畳の変色、フローリングの色落ち
(日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生したもの)
◎カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ
◎冷蔵庫下のサビ跡
◎引越作業で生じたひっかきキズ
◎畳やフローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの)
◎落書き等の故意による毀損
■畳:原則1枚単位
※毀損等が複数枚にわたる場合は、その枚数(裏返しか表替えかは毀損の程度による)
■カーペット、クッションフロア:毀損等が複数箇所にわたる場合は当該居室全体
■フローリング:原則㎡単位
※毀損等が複数箇所にわたる場合は当該居室全体
壁・天井
(クロスなど)
◎テレビ、冷蔵庫などの後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
◎壁に貼ったポスターや絵画の跡
◎エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡
◎クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)
◎壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)
◎台所の油汚れ
◎結露を放置したことにより拡大したカビ、シミ
◎タバコ等のヤニ・臭い
◎壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替が必要な程度のもの)
◎クーラー(賃貸人所有)から水漏れし、賃借人が放置したため壁が腐食
◎天井に直接つけた照明器具の跡
◎落書き等の故意による毀損
■壁(クロス):㎡単位が望ましいが、賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえないとする。
※タバコなどのヤニや臭い
喫煙等により当該居室全体においてクロスなどがヤニで変色したり臭いが付着した場合の
み、当該居室全体のクリーニングまたは張替費用を賃借人負担とすることが妥当と考えられる。
建具
(襖・柱など)
◎網戸の張替え(破損等はしていないが次の入居者確保のために行うもの)
◎地震で破損したガラス
◎網入りガラスの亀裂(構造により自然に発生したもの)
◎飼育ペットによる柱等のキズ・臭い
◎落書き等の故意による毀損
■襖:1枚単位
■柱:1本単位
設備その他
(カギなど)
◎全体のハウスクリーニング(専門業者による)
◎エアコンの内部洗浄
◎消毒(台所、トイレ)
◎浴槽、風呂釜等の取替え(破損などはしていないが、次の入居者確保のため行うもの)
◎鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)
◎設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの)
◎ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす
◎風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビなど
◎日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損
◎鍵の紛失、破損による取替え
◎戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草
■設備機器:補修部分、交換相当費用
■鍵:紛失の場合はシリンダーの交換
■クリーニング:部位ごともしくは住戸全体

出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」

4.経過年数によって負担割合は変化する

前章で、大家さんと借り主さんの原状回復費用の分担がわかりましたよね。
ただ、借り主のせいで汚れやキズができ、修繕費用を借り主が負担すべきものでも、かならず全額負担しなければならないわけではありません
ここでも経年劣化と通常損耗が加味されて、負担割合が変わる場合があるのです。

たとえば、借り主が模様替えなどをして、クロス貼りの壁にキズをつけてしまったり、クロスの一部がはがれてしまったとします。
これは借り主の過失ですから、張り替え費用は借り主が全額支払うことになると思いますよね。

ですが、原状回復ガイドラインでは、壁のクロスは新品のときから徐々に価値が下がっていき、6年で1円の価値しかなくなるとしています。
言い換えれば、「壁のクロスの耐久年数は6年」ということです。

つまり、張り替えから3年たったクロスの価値は当初の50%6年たったらほぼ0%に減ってしまうのです。
したがって張り替え費用は、3年目であれば50%だけ負担すればよく、6年以上たてば負担しなくてもよくなるというわけです。

これを「経過年数の考慮」と呼び、部屋の部位・設備によって考慮されるものとされないものがあり、考慮される場合も年数が異なります。

具体的には以下の表を参考にしてください。

【経過年数の考慮】

部位 経過年数などの考慮
<畳表>
経過年数は考慮しない。
カーペット
クッションフロア
<畳床・カーペット・クッションフロア>
6年で残存価値1円となるような負担割合を算定する。
フローリング <フローリング>
補修は経過年数を考慮しない。
(フローリング全体にわたる毀損等があり、張り替える場合は、当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような負担割合を算定する。)
壁・天井 壁(クロス) <壁〔クロス〕>
6年で残存価値1円となるような負担割合を算定する。
タバコなどの
ヤニ、臭い
建具・柱 <襖紙、障子紙>
経過年数は考慮しない。
<襖、障子などの建具部分、柱>
経過年数は考慮しない。
設備その他 設備機器

<設備機器>
耐用年数経過時点で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する。

【主な設備の耐用年数】
●耐用年数5年:流し台
●耐用年数6年:冷房用、暖房用機器(エアコン、ルームクーラー、ストーブなど)、電気冷蔵庫、ガス機器(ガスレンジ)、インターホン
●耐用年数8年:主として金属製以外の家具(書棚、たんす、戸棚、茶ダンス)
●耐用年数15年:便器、洗面台等の給排水・衛生設備、主として金属製の器具・備品
●当該建物の耐用年数を適用:ユニットバス、浴槽、下駄箱(建物に固着して一体不可分なもの)

鍵の紛失の場合は、経過年数は考慮しない。
交換費用相当分を借主負担とする。
  クリーニング 経過年数は考慮しない。借主負担となるのは、通常の清掃を実施していない場合で、部位もしくは、住戸全体の清掃費用相当分を借主負担とする。

出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」

5.費用負担に納得いかない場合の対処法

さて、実際に賃貸物件から賃借人が退去する場合、大家さんや管理会社から提示された原状回復費用の負担額に納得いかない場合もあるでしょう。
その場合は、以下の3ステップで対処してください。

5-1.話し合い

まずは、原状回復ガイドラインに沿って話し合いをしましょう。

「3.原状回復費用を貸主・借主どちらが負担するかの具体例」 「4.経過年数によって負担割合は変化する」 を基準にすれば、原状回復費用の適正な負担額がわかりますので、それをもとに先方に減額や負担の免除を申し出てください。

ただその際は、契約書の内容をよく確認しましょう。
たとえば特約の中に、その費用を賃借人が負担するという項目があれば、支払わなければならない可能性もあります

5-2.裁判外紛争処理制度

話し合いで解決しなければ、裁判外紛争処理制度(ADR)を利用することができます。

これは、裁判ではなく、第三者による「あっせん」「調停」「仲裁」によって問題を解決する制度です。
間に入る第三者は「あっせん人」「調停人」「仲裁人」と呼ばれ、弁護士をはじめ司法書士、弁理士などの専門家や、法務大臣の認証を受けた「認証紛争解決事業者」などが担当します。

裁判と異なるのは、あくまで当事者同士の間で解決をはかるという点です。
「あっせん人」「調停人」「仲裁人」は中立な第三者として間に入ります。

「あっせん」「調停」の場合は、あっせん人・調停人が意見を述べることもありますが、それには強制力はなく、もちろん拒否してもかまいません

一方で「仲裁」の場合は、仲裁人は解決内容を判断します。
仲裁で下された判断には、裁判の判決同様の効力があり、紛争当事者は両者ともにしたがわなければなりません

5-3.少額訴訟

それでも解決しない場合は、少額訴訟に持ち込むという手もあります。

少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いを求める場合にのみ利用できる簡単な訴訟手続きです。
簡易裁判所で1回の審理を受ければよく、判決はその日に出されます。

原状回復費用の負担に納得いかない場合は、この手続きを利用して「敷金の返還訴訟」を起こすことができます。

6.【大家さん向け】原状回復ガイドラインを踏まえてすべきこと

ここまで、どちらかというと賃貸物件を借りている側=賃借人の立場から、原状回復ガイドラインについてみてきました。

では、大家さんの立場から見てみると、どうでしょうか?
この章では、大家さんが原状回復ガイドラインをどのように役立てればいいか、考えていきましょう。

6-1.原状回復ガイドラインをもとに契約内容を見直す

原状回復ガイドラインの目的は、退去時のトラブル解決よりも、入居前にトラブルを予防しておくことにあります。
そこでまず大家さんは、原状回復ガイドラインを参照して、契約書の内容を見直してください。

部屋の細かい部位について、原状回復費用はどの部分は大家さん負担で、どの部分が借り主さん負担になるか、その責任範囲を契約書をもとに判断してみましょう。
もし、あいまいで判断しにくい部分があれば、それに関してどちら持ちにするか、契約書に項目を追加する必要があるでしょう。

6-2.「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」を活用する

原状回復に関するトラブルの大きな原因のひとつに、「入居時に物件の状況がどうだったか、くわしく確認していなかったこと」が挙げられます。
そのため退去時に、大家さんと借り主さんの間で、「このキズは入居前からあった」「いや、なかった」とか、「もともとこの部分は汚れて変色していた」「いや、もっときれいだった」という食い違いが生まれるのです。

ならば、まず入居時に物件の状態を細かくチェックしておいて、退去時に照らし合わせれば、こういったトラブルは防げるはずです。

そこで、原状回復ガイドラインには、「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」というものが例示されています。
各部屋ごとに天井・床・ドア・壁などの部位の状態を記録しておける、以下のようなリストです。

出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」

このリストは、以下からダウンロードすることもできますので、ぜひ利用してください。

入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト(例)

具体的な利用のしかたとしては、
1)入居時に、大家さん、管理会社、借り主さんが立ち会って、リストの各部分をチェックする。
 ・お互いに確認しながら、各項目の汚れ、キズなどの状態を記入していく
 ・キズの位置などわかりやすいよう、見取り図や平面図を用意して書き込んでおくとよい
 ・各部分の写真も撮っておくとよい

2)記録を保管しておく。

3)退去時に、大家さん、管理会社、借り主さんが立ち会って、リストと照らし合わせながらチェックする。

という流れにすると、お互い納得できるでしょう。

6-3.賃借人に原状回復義務のリストを渡す

また、入居時には借り主さんに、「退去時に借り主さんが原状回復しなければいけない部分のリスト」を渡しておくのもおすすめです。

最初にそれを知らされれば、借り主さんとしてもその部分をなるべく汚さないよう、傷つけないように注意して生活するはずです。
また、退去時にも「この部分はあなたに回復義務があると、事前に伝えていましたよね」と言えるので、トラブルが減るでしょう。

念のため、原状回復ガイドラインにのっとって、賃借人に原状回復義務がある部分のリストを作成しました。
実際には、物件ごとに契約書の内容は異なるはずなので、以下のリストに特約の内容を付け加えるなど、カスタマイズして使ってください。

【賃借人(借り主さん)の負担で原状回復しなければならない部位リスト】

部位 賃貸人(大家さん)
負担のもの
賃借人(借り主さん)の負担単位
床(畳、フローリング、カーペットなど) ◎カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ
◎冷蔵庫下のサビ跡
◎引越作業で生じたひっかきキズ
◎畳やフローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの)
◎落書き等の故意による毀損
■畳:原則1枚単位
※毀損等が複数枚にわたる場合は、その枚数(裏返しか表替えかは毀損の程度による)
■カーペット、クッションフロア:毀損等が複数箇所にわたる場合は当該居室全体
■フローリング:原則㎡単位
※毀損等が複数箇所にわたる場合は当該居室全体
壁・天井
(クロスなど)
◎台所の油汚れ
◎結露を放置したことにより拡大したカビ、シミ
◎タバコ等のヤニ・臭い
◎壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替が必要な程度のもの)
◎クーラー(賃貸人所有)から水漏れし、賃借人が放置したため壁が腐食
◎天井に直接つけた照明器具の跡
◎落書き等の故意による毀損
■壁(クロス):㎡単位が望ましいが、賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえないとする。
※タバコなどのヤニや臭い
喫煙等により当該居室全体においてクロスなどがヤニで変色したり臭いが付着した場合のみ、当該居室全体のクリーニングまたは張替費用を賃借人負担とすることが妥当と考えられる。
建具
(襖・柱など)
◎飼育ペットによる柱等のキズ・臭い
◎落書き等の故意による毀損
■襖:1枚単位
■柱:1本単位
設備その他
(カギなど)
◎ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす
◎風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビなど
◎日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損
◎鍵の紛失、破損による取替え
◎戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草
■設備機器:補修部分、交換相当費用
■鍵:紛失の場合はシリンダーの交換
■クリーニング:部位ごともしくは住戸全体

出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」

ちなみに、この記事を読んでいる人の中には、「これから賃貸物件を建てようと思っている」という大家さんもいることでしょう。
大家さんとしては、住民とのトラブルはできるだけ避けたいですよね。

この記事では「原状回復」に関するトラブルにフォーカスしましたが、実は賃貸物件でもっとも多いトラブルのひとつに「騒音問題」があるのです。
住民同士で「あの家の足音がうるさい」「赤ちゃんの泣き声がストレス」「深夜に洗濯機を回す音がして眠れない」といったクレームはよくあることで、多くの大家さんの悩みの種になっているようです。

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7.原状回復に関するトラブルを未然に防ぐ方法

ここまで、原状回復ガイドラインについてさまざまな視点から解説してきました。
が、前述したように、このガイドラインの第一の目的は、「原状回復に関するトラブルを未然に防ぐこと」です。
そこで最後に、トラブル予防のための対策を挙げておきましょう。

7-1.事前に契約書をしっかり読む

前章で大家さん向けに、原状回復ガイドラインをもとに契約書を見直すことを提案しました。
それに対して借り主さん側がまずすべきことは、契約書をよくよく読むことです。

契約書には原状回復に関するどんな項目があるか、その内容には納得できるか、きちんと確認してください。
もし不明な点があれば、納得できるまで質問しましょう。
借り主さん・大家さんの間で、「原状回復は、誰がどの部分を負担するのか」について共通認識をもつことができれば、トラブルは回避できるでしょう。

7-2.入居前に室内をチェックし記録する

「6-2.「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」を活用する」 で大家さんに、入居前に物件の状況を細かく記録しておくことをおすすめしましたが、これには借り主さんにもぜひ参加してほしいです。

大家さんや管理会社の担当者と一緒に入居前の部屋に入り、各部屋の壁や天井、ドアや床などの状態を細かくチェックしていくのです。
そのチェックリストやチェックのしかたは、上記の6-2のリンクを参照してください。

これをしておけば、退去時に「このキズはもとからあったか、あとからついたか」「この汚れは経年劣化の範囲内か、それ以上か」でもめるリスクが減らせるでしょう。

8.まとめ

いかがでしたか?
原状回復ガイドラインの内容と、それに沿ってすべきことがよくわかったかと思います。

ではもう一度、記事の要点をまとめてみましょう。

「原状回復ガイドライン」とは、賃貸住宅の退去時に起きがちな「原状回復」にかんするトラブルを未然に防ぐために、国土交通省が作成したもので、
・「原状回復」の定義
・原状回復の費用負担
について、基準が示されている

「原状回復」とは、新築の状態や入居時の状態に戻すことではない
 →「経年劣化」や「通常損耗」は回復しなくてもよい 

原状回復に関するトラブルを未然に防ぐには、
・事前に契約書をしっかり読む
・入居前に室内をチェックし記録する

以上を踏まえて、あなたが納得して原状回復できるよう願っています!

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